人類戦士ミアリ ロックへの復讐 第一部

ここは遥か彼方の地球の未来、西暦3400年の日本の場所、”地下都市”メガロポリス・ヤマトシティ。
そう、地球はこの頃滅びかかっていたのだ。地上は異常気象で荒野と化し、多くの動植物が種と共に死に絶えて行った。人類はかろうじて生き延びていたが、異常な猛暑や大気汚染によって人は地上では生きてかれない環境となり、居住地は地中の地下へと移っていった。そしてそこで新たな文明を築いていた。
地下都市は「永遠の都」と呼ばれた。「永遠」とは襲ってくる寂しさを忘れさせるためにそう呼ばれている。が、漸進への諦めの意識も含まれているのかもしれない…。
ヤマトの全都市は電子頭脳の大型AI「ハレルヤ」によって支配されていた。地球の異常に対してどうにも出来なくなった人類は、文明の全てを機械に委ねてしまったのだ。
ハレルヤが置かれている場所はヤマト中央本部である。そこはヤマト全域の政府機関や行政機関、警察機関でもあり、人類救済のために、そしてヤマトの治安を守るために日々活躍する人類戦士または宇宙戦士のエリート達が多数働いている。
そして、そこにはある女性の人類戦士が在籍していた。
ミアリ、27歳。
濃いピンクの髪色に長めのゆるウェーブで部分的にくるりとカールしている。目は丸みを帯びた優しい目つきで瞳の色は青く輝いているように見える。全体的に清楚っぽいイメージで顔は女優並みに綺麗に整っており、言いかえればとても純真で美人な女性である。薄ピンク色の管理官用スーツを着ており、肩には左右に出っ張って尖るように伸びた逆三角状の肩当と大きなリボンのネクタイをつけている。
そんな彼女は実は”人”ではない。彼女の正体は約50年前に遥か遠い星の宇宙、シリウス十二番星からやってきた不定形生物”ムーピー”の末裔である。つまりミアリは宇宙生物のムーピーなのだ。ムーピーが「ミアリ」という美しい女性に化けているのである。ムーピーの本来の姿は所々大きくざらついているピンクのスライム状の形態をした生き物である。醜い姿をしているが外見の変形が可能なメタモルフォーゼであり、人の他に花や動物など大きめの生き物であれば何でも変身が可能。変身のほかに相手の脳を刺激して夢を見させる特殊能力もあるのだが、それは後術する。
ミアリは約8年前、まだ人間でもないムーピーそのものの姿だった頃、ムーピー専門のペットショップに売られていた。
そしてある男によって購入され、人として育てられ人間の女性として生きていくことになったのだ。名前は「ミアリ」と名付けられた。彼女の当時の年齢は19歳であった。
購入をした男は”高乃”という名であった。年齢は17歳で彼は彼女の’元’恋人である。高乃はムーピーのミアリを彼女のようにして振る舞い、そして夫婦のように幸せに生活を送っていたのだった。
高乃「ミアリ…君は俺の孤独な人生を救ってくれた素晴らしい女性だ。ここまで俺を想うなんて……君は人間の女を超えた存在だ。ありがとう。」
ミアリ「わたしは高乃が幸せに感じてくれればそれで嬉しいですわ。これからもずっとあなたの想う女性のままに…」
ムーピーの異性はまさしく誰もが理想するパートナーの持ち方だろう。そう、その異性には両親が存在しないし、自分が何かをしても責任は自分だけに来るのだから。そして何より全てを自分のものだけに出来る唯一の異性の存在なのだから。
さらにムーピーには人間以上の思いやりや優しさがある。そもそもムーピーは元々”ペット”扱いだ。飼い主には忠実で主人のためならどんなことでも尽くし、命がけで主人を守ることだってある。たとえ相手が醜い顔の男性であっても関係なく相方として受け入れてくれる。その美しい人格は芸術の域と呼べるものだ。
また異性であっても変形であるため外見上で歳を取ることはない。そのため精神的な年をとっても肉体的な年を取ることはまずないのだ。また寿命も500年とかなりの長さである。もうムーピーは存在自体が夢のような存在であり素晴らしいものである。

しかし高乃とミアリの幸せは長く続かなかった。あれから3年後(今から5年前)、高乃がヤマト中央本部警察より国家反逆の罪で逮捕されてしまう。
ヤマトを統治する電子頭脳ハレルヤへの破壊未遂容疑とスパイ容疑であった。
彼は反ハレルヤ派であり、機械で支配される世の中の在り方に不信感を抱いていた。合理化が徹底しすぎる規制、法律、絶対機械主義…。個々の人の自由を徐々に奪い、窮屈な生活を強いられる世の様を見ていられなかった。
高乃は革命を目指す反ハレ運動のグループに属し、組織ぐるみの計画で高乃は中央本部に潜入して電子頭脳ハレルヤにダイナマイトを仕掛ける役を命じられていた。しかし想定外の出来事で内部の戦士に見つかってしまい、計画は失敗に終わる…。グループのメンバーは全員捕まり即死刑が確定するのだった…
ミアリは高乃がその活動を行なっている事を知らなかった。彼が捕まった次の日にその事実をニュースで知ってショックを受けるのだった。
だが高乃はその後隙を見て脱獄、家に戻りミアリを連れて国外へ亡命しようとしたが、中央本部の人類戦士たちに取り囲まれてしまう。そして戦士の中から一人、前に出て現れたサングラスの男がいた。中央本部の人類戦士三級宙士で特別管理官のエリート”ロック”である。年齢は高乃と同じぐらいだろう。出っ張った前髪に顔側にひん向いたもみあげが特徴の髪型で光が反射するほどのツヤがある。顔立ちは俳優並みに綺麗に整っており、どんな女性でも魅了するような強烈な色気を放っている感じの男性である。逆にイケメンすぎて近寄りがたいとも思える存在であった。管理官スーツはミアリと同じだが、色は薄青でリボンではなくチェックのネクタイをしていた。
「残念だったな高乃…。お前の逃げ場はもうない。お前の命はハレルヤの決定で決まったのだ。市民権と存命権は剥奪された。ここにいる事生きている事自体がもう罪だ。死ね!」
高乃に光線銃を向ける。
「ふざけるな!人間が作り出した機械に命までも決定されてたまるものか!そんなことは人道的に絶対に許さない!」
「だが許されてしまうのさ。これが現実さ。反逆者が反逆するものに裁かれて哀れなものだ。」
「お前たちは機械に支配された奴隷人形だ。人間以下の存在だ!」
「うるせぇな!とっとと裁かれろ!」
ミアリ「やめてぇええーーーー!!」
ロックが容赦なく光線銃を放つ。
ミアリが高乃の前に立ち塞ごうとするが間に合わなかった…

ビビビビビーーーーー!!
高乃「うわあああああああああーーー!あああああ……ああああ…ぁ…ミ…ア……りぁ…ぁ…」
青い光線が解き放ち、高乃の心臓を直撃したのだった…
そして光線は高乃の身体全身を覆い、あっけなく灰になってしまうのだった…
ミアリ「あ、あ…!……、あああああ〜〜!!タカノオオオオオーーーーー!!タカノーーー!!うわあああああん!!」
高乃は撃たれて死んでしまったのだった。灰は風に煽られて何処かへ飛んでいくのだった。ミアリは悲しみでたくさんの涙を流して激しく泣いていた…
ロック「フフフフ…あっけなかったな。よし。これで任務完了っと。どんな事言われようがハレルヤの計算が全て正しいのだ。
さて…」
ロックがサングラスを外し、ミアリに話しかける。
「残念だったな彼女。相手にした男はこのヤマトを滅ぼす凶悪人で危険な思想の持ち主だったのさ。次はいい彼氏を見つけるんだな。」
「高乃はそんな人じゃないわ!」
「お前は今まで騙されてたんだよ。人間には裏の顔があるってもんだ。」
「うぅっ…、もうあっちいって!
うっうっ…ひっくひっく……うわあああん!…タカノ…タカノォ…」
「ま、しばらく悲しみに浸ってな。じゃあな。」
自分を育ててくれた恋人を失った…私にとってタカノは全てだった。なのに一瞬で失ってしまった。私はこの先どう生きればいいだろうか…
あの事件でミアリの記憶に大きく焼き付いたのは高乃を殺したロックという男だった。あまりの美形に悲しい状況ながらも女性本能で心が揺れ動いてしまったりもしたが、高乃を殺した憎むべき男でもある。
事件の後、高乃の真相を知るため家にあった残された反ハレ革命組織の活動データをミアリが調べ上げ反ハレルヤ主義の思想に賛同する。しかし高乃らが逮捕された後は組織が崩壊したため、資料などの共有データは警察によって消去または処分されていたため具体的な活動情報を入手する事は困難だった。そのため更なるハレルヤの実態、そしてヤマトの情勢を調べるため中央本部の人類戦士を目指す決意をする。この決意はロックへの復讐も兼ねてだった。
ミアリは中央本部の人類戦士になるため、専門の訓練学校に入り日々厳しい身体的な教育プログラムを受けた。彼女は女性生徒としてはとても希少な存在で、かつ美しい外見でもあったため多くの男性生徒からアプローチが来たりもしたが、彼女の恋心は高乃一筋であったため断ったりしていた。学問もたくさん学び、世の中の全体像を知ることができた。

地下都市のメガロポリスは実は世界に5カ所ある。元日本国であったヤマトの他に、ユーオーク(元アメリカ合衆国)、ピンキング(元中国周辺)、レングード(元ロシア、レニングラード周辺)、ルマズエース(元フランス・ヨーロッパ部)がある。いずれもハレルヤのように大型AIによって都は統治されている。

そして3年の月日を経て試験に合格し、彼女は希少な女性人類戦士として2年前に中央本部に在籍することになった。
憎むべきロックはこの頃に二級戦士に昇格していたが、沢山の他の人類戦士がおりミアリの所属部隊は異なっていたためロックと顔合わせする事はほとんどなかった。けど彼女にとっては安定した職業となり、日々ヤマト市の治安と平和を守る美人戦士として任務を遂行していった。
電子頭脳ハレルヤに忠実な教条主義者が多い環境ではあったが、彼女はそれに捉われない人間味のある優しい戦士として市民からは愛されていた。そしてその美貌とセクシーなスタイルからオタク系の人間には抜群の人気があり、ドラマや映画にも出演するほどのアイドル的存在ともなりつつあった。とにかく彼女は運動神経も良かったため、多くの事件では犯人を捕まえるのが上手だった。中には彼女に捕まられたいために窃盗事件を起こした者もいたとか。。
そして彼女は二年間の活躍で三級戦士にまでに昇り詰め現在に至る。
しかし、それを気に入らない目で見ているサングラスの男がいた。それはあの日に高乃を銃殺し、ミアリが憎むべき存在、復讐の的としている男のロックであった。彼は約一年前に上役の総合評価とハレルヤの認定で一級宇宙戦士に昇格していた。
ロックは高乃を銃殺した当時のことをあまり覚えていないため、ミアリがあの時の女と同一人物であることを知らない…
とある管理局の広いベランダにてロックは部下と話をする。
「ふん。あの女め。俺より下級のくせにいい気になりやがって。人類戦士はアイドルじゃないんだぞ!我々は政治的な意味で任務をこなしているんだ。戦士を何だと思ってんだ!」
部下「しかしミアリちゃんは女優並みに可愛いですからね。特にあの美貌…、僕も見ていて蕩けちゃいそうですが…。」
「あぁ?何だと?戦士が情欲に惑わされるんじゃない!」
部下「別にそういう意味ではなくて、戦士の民衆への評判がもっといい方向なるならそれでいいんじゃないかと思うのですが…」
「人類戦士は娯楽のためにあるんじゃない!世の中の社会と秩序を守るために、我が地球の救い主“ハレルヤ”が求める国家のために、任務を遂行するためにあるんだ!」
部下「ははあ、もしやロックさん、嫉妬しているのでは?ロックさんもイケメンですからねぇ。」
「そんなのは関係ない。確かに美形なのは当然であるが、彼女の場合は顔がいいのを調子づいて自己満足をたくさん得ようとするエゴイズムとなりつつある。人類戦士としての本来のあり方に逸脱し、市民のために忠誠を尽くす戦士としてのふさわしい感じではない。
これ以上深く民衆に関われば人類戦士の誤解とイメージダウンにもなりかれない。
人類戦士には人類戦士の振る舞いがあるもんだ。手を打つ必要があるかもな…」
部下「そうなんですか?でもしっかり任務をこなしているじゃないですか。それも人一倍に…」
「職務で余分なことをしているのが問題なのだ!俺は生まれた時から中央本部の人間だったからな。母のハレルヤの教育によって育った。だからハレルヤの思っていることや考えることはわかるし、ミアリという女の行動はハレルヤの思想に反するものだと思ってる」
部下「ハレルヤといっても機械ですよ?本当にわかるんですか?」
「おい、それはハレルヤへの冒涜になるぞ?ハレルヤは地球の救い主で聖なる存在だ。機械であろうが今は機械を超えた人類の絶対的存在だ。ハレルヤには神の精神が宿っていると信じてる。言葉には気を付けろよ。」
部下「はっ!それは失礼しました!神聖なお方なんですね。まあ、我々も今はハレルヤなくして今の国家が成り立たないですからねえ…」
「お前も一級宇宙戦士になればそのうちお会いになられるさ。直にハレルヤにあって母の偉大さを知るがいい。そして忠誠を尽くしてより徹底した任務をこなすんだぞ。」
「はっ!同期の山之辺に負けないよう、頑張って参りたい次第です!」

ーーー

そして…ミアリがある任務が終えて廊下を一人で歩いていると、彼女の部屋の入り口扉の前には彼女を待つように怪しい雰囲気の男がいた。
初めは影で覆っていて誰だかわからなかったが、徐々に歩いて近づくとその男は正体はあの悲劇を起こした憎むべき男、ロックだった。強烈なフェロモンを放っていて訓練を受けた者でないと耐えられないほどの色気を放っているが、ミアリもそれに値するほどの美女になっていたのでお互いの波長が合いそうな感じである。
それでも彼女はおどおどしたが、話しかけることは避けられない。
「おい、君はここ最近人気者の三級戦士・警察機構部隊所属のミアリ君かね?」
すぐに視線が会い、話しかけられた。
「あ…はい。こんばんは。あなたは一級戦士の治安保全管理部隊隊長のロックさんですね。話すのは初めてですね…わたしに何か用でしょうか?」
「実はな…ここ最近の市議会会議で組織再編の話があってな、警察機構部隊と治安保全管理部隊は今後統合することになったんだ。確かミアリ君は代理の隊長だったね。」
「え?はい、中山隊長は半年前にユーオークに逃亡した国際手配犯の追跡任務に出て行ったきり音沙汰がないままで…」
「ああ、その中山隊長はつい最近死んだと報告があったよ。」
「えぇ!?うそ!」
「会議の時にユーオークから動画が送られていてな…。犯人はウチらの戦士を自国に連れ込んではめるつもりだったんだ。許せねえぜ。政治的な国の策略だったんだ。」
「ひどい…犯人は国外からのスパイだったんですね…」
「ああ…部隊を人質に中央本部から身代金9000億円を要求するつもりだったらしいが、とんだ事故が起こったんだ。現地で突然の地底火山の噴火が起こってな…落盤やマグマにのまれて部隊や犯人もろとも全員やられてしまったんだ。不運なものだよ。」
「そんな…隊長さん、いい人だったのに…かわいそうに…ひっく…しくしく…」
ミアリは悲しい表情で涙を流す。
「ま、そういうわけでミアリ君、君は中山隊長殉職により隊長に昇格さ。つっても統合されるからすぐ無くなるけど…。」
「なんか平気な感じで仰っているようですけど隊長がなくなって悲惨だと思わないのですか?」
「国外に出た者は死を覚悟して任務を遂行する心構えを持っているはずだ。死の可能性がある彼らに感情を出す必要はない。」
「本当に死を覚悟して向かった思っているのですか?そう言ってても心の中では無事に任務を終えて帰りたいと思ってたはずです。隊長には家族がいたんですよ。残された家族を想うと…ひっく…しくしく……。」
再び悲しい表情で涙を流すミアリ…
「ふんっ」
しかしミアリの表情に不満を示すロックであった。
ミアリ「人が生きようとする感覚は誰もが逃れられない生命の本能なのですわ…」
「君はまだ甘いな。戦争に出ればそんな事は言ってられないよ。常識も通じない狂気の世界だからな。時に感情を殺してでも任務を遂行しなければならない時がある。」
「でも、今は戦争の時代ではありません。時代の状況に応じて人の命の尊重を考えていくべきです。」
「全く、君はまだまだ経験が足りんよ。二級以上の上官になれば思い知るだろうよ。
人類戦士は給料は高額だがその分危険な任務も多い。ミアリ君みたいに軽々しくやってしまう任務も、他の戦士からすれば死に物狂いでやってたりするもんだ。そして毎回死者が多いのも事実。何せヤマトの戦士は今や支部の連中も含めれば70万を超えるからな。死亡報告は当然のように毎週報告があるし一人一人悲しんでたらきりがないよ。」
「そんなに命が…そもそも戦士は実力がなければなれないはずでは…」
「君は真面目だから訓練校まで出たそうだけど、地方の支部では体力テストだけで戦士になれるとこもあるんだよ。何せ地方は人手不足が激しいからな」
「でも死者がこんなに激しいのに、改善もせず放置するなんて一体管理局の体制はどうなっているのですか?」
「どれもこうもハレルヤの命じた通りにやればいいのさ。ハレルヤの計算に間違いはないし、平穏な治安を守るために多少の犠牲も仕方ないことさ。無理に人の寿命を伸ばせば世の中は食物危機になりうることだろう。今では絶滅してしまった生物も多いため食料の確保は100年前の地上時代のようにはいかない。合成食品を作るにも一定の有機物が必要だから限界がある。だから必要な生もあれば”必要な死もある”ということさ。ハレルヤはそこも計算されておられるのだ。」
「しかし一人一人命は尊いものです。あなたのご両親がもし殺されたりしたらあなたはどう思いますか?少しは重んじる心を…」
「もうそんなのはどうでもいいよ。死が悪いかどうかなんて所詮は原始的な宗教の話さ。そもそも中山隊長とはあまり面識がないしな…」
心の中で許せない感情が再び吹き上がるミアリであった。
「とにかく俺の部隊と統合するんだ。今後の国外活動での武力を強化させるためにな。
ミアリ君、君は今三級戦士だからな…これからは俺の直属の部下になるんだ。よろしく頼むよ。」
握手しようとするロックだったが…
「はいわかりました。もうどいてください!」
ミアリは握手を無視して怒った態度でさっさと部屋に入ってしまうのだった。
ドアがバタン!と激しい音を立てて閉まる…
「やれやれ、この女は人類戦士としての威厳が欠けている。これからは俺が沢山しごいてやる必要があるかもな…
それに…、いい女だしな…クククク」
怪しい雰囲気に変わり、ニヤリとあざ笑ってダークな表情をするロックであった。
一方ドアの先では…
「なんとかロックに接触できた。しかし本当に嫌な男…早く滅茶苦茶にこらしめたい!
何とかこの”コントロール”をうまく使いこなさないと。」
ミアリは窓の外を眺める。外には一人の管理官が歩いていた。
ミアリはその管理官に一点集中してムーピーの力で念波を送り込んだ。
そうするとその管理官は意味もなく手をあげたり、円を書くように走ったり、「あー、いー」と喋ったりした。いったい何なのか?
それはミアリがムーピーの念波でターゲットの管理官の脳に侵入し、遠隔操作で意識を操ったのだ。
ムーピーは外見の変形の他に「ムーピーゲーム」という相手の脳を超音波で刺激して理想の夢(幻)を見せさせる能力が一般的に知られている。一種の催眠術であり、飼い主の生きたい世界をムーピーが想像して与えたりする。やり方は簡単でムーピーの体に触れるだけで出来る。
しかし、この他にもごく一部の個体には念波を飛ばして相手の意識を擬似体験させて操る能力を持つムーピーも存在する。ただその能力を持つ個体は0.002%の確率で現れると言われており、ミアリは地球上のムーピーとしては初のその能力を持つ個体だった。当然ながら地球上の人間では(ムーピーが連れてこられた50年の間でも)それを知るものは誰もいない。
操られた人間は、自分の意識でやったように自覚するため、操られたことに全く気づかれない…まさに人を操るスーパー能力である。
この能力にミアリが気づいたのは中央本部に在籍してから1年が経った頃のことだった。

ーーー
一週間後、ミアリの所属部隊はロックの部隊と統合され、ロックが隊長の新部隊「ヤマト総合管理部隊」を結成するのだった。
任務は基本としてロックと同行することが多く、勝手な行動は許されない厳しい状態に置かれるのだった。
ある任務の後のこと。ミアリはその日ロックの代理隊長としてある事件の監督をしていたのだった。しかしその任務は大きな失敗に終わってしまう…
そして帰還後の中央本部二号棟隊長室にて。
ロック「おいミアリ!今日の任務の追跡動画を見たが、なぜ追ってたあの犯人のトドメをささなかった!あの犯人を逃したせいでビル爆破が計画通り実行され、約50人もの犠牲者が出てしまったんだぞ!」
「犠牲者が出てしまったことは私もとても悲しい事です。後日お詫びをして、一軒一軒償いに行きます…」
「ふん、そんな事はわざわざせんでいいよ。お詫び会見だけでたっぷりと非難を味わいな。」
「わざわざって…ロック隊長、あなたは人類戦士としてもっと遺族の気持ちを考えてください…」
「俺のことはどうでもいい。謝罪会見をじっくりと味わえ。これでお前はもう市民の評判はガタ落ちになるわけだしな。…もうアイドルごときの活動はやってられないわけだ。ま、俺はそんな活動戦士として許さないけどね。」
「……」
嫌味を言われ沈むミアリだが、心の奥ではむっとするミアリであった。
「それより任務をしくじった事はどうする気かね?」
「一ヶ月の減給と反省文を受けます…しかし任務はあくまでも犯人を捉えることです。殺すことではありませんわ!」
ミアリは反論する。
「奴は更生の余地もない凶悪人だ。犯行前の管理局に対する脅し発言、そして10件近くの前科数…あれはもう自分の利益しか考えない自分勝手な欲望者だ。この世に生かす価値はない。」
「それでも恨みだけで人の命をすぐ判断していいとは思えません。まずは捕まえて事情聴取をして…」
「反省しない奴なんかに事情聴取したって無駄さ。そういう奴は罪を逃れる様な事言ってきて釈放なんかになったら大変だ。こういうわかりやすい犯罪者は早めの処分するのが望ましいのだ。ハレルヤならそう判断するはずだ。」
「ハレルヤ様は直接見たことはありませんが、いくらなんでも人をいきなり殺めるなんてことは…」
「フフフフ…甘いな。前に行ったよな。世の中には”必要な死もある”ということを。今の人類は地底生活を余儀なく送っているが、そこに入れられる人の数はいずれ限られる。昔と違って大地がずっと続いているわけではないしな…特にヤマトの地上は元々小さい島国だ。広げられる地下の範囲も限られてくる。
海下なんて水圧が危険すぎて穴を掘ることはまず出来ない。決壊なんてしたら都市は水責めで一巻の終わりだしな…笑えんよ。
そして地下空間だから人間が行動できる範囲も限られてしまっているのが事実だ。地上に出れば亡命罪で罰則も重いしね。」
「それは私達人類が長い間環境問題を軽視し、自然を侮った結果の酬いなのですわ。」
「全く皮肉なもんだ。俺たちの先祖はとんだ事をしてくれたもんだよ。窮屈な地底生活を強いられて今の人類は過去の感傷にひたる始末…だらしないものだ。使えない人間はすぐさま処分して都の人口を調整していく必要があるというのに。」
「え!?今なんて?」
「おっとこれは喋ってはならなかったな…」
ミアリは恐ろしいことを聞いてしまった様だ。いわば政府の闇とも言えるものだろうか。
「それもハレルヤ様のご意向なんですか?そうなんですか?」
「まあ、とにかく必要な死があるというのはそういうことさ。凶悪犯罪者のほかにボケたお年寄りや働かないニートはもう片付けることになったのさ。」
「そんな!信じられない!」
「彼らはもう地下社会には完全に役に立たない奴らだ。存在するだけで都の害だ。21世期の頃からずっと抱えていた社会問題だったがほとんど改善されなかった。」
「だからってそんな極端な判断はひどすぎます!市民がそんなことを許すと思うのでしょうか?」
「許す許せないだろうがこれはもうヤマトの将来の問題なんだ。人類の存亡に関わる問題でもあるしな。」
「本当にハレルヤ様が…嘘でしょう!あなたの独自のお考えではないでしょうか?」
恨みを持つロックの言う事を信じられないミアリであった。
「ふん、都市の今の実態を考えてみろ!平和な時代が長く続きすぎたために人々はまたも堕落し始めた。一部ではムーピーとやらの宇宙生物に呑まれてしまっている奴もいる。ムーピーの存在も議論しどころだが人類が再び文明の前進に立ち上げるためには政府の徹底ぶりを見せる”刺激”を起こさせるしかないのだ。これは中央本部政府からのアピールであり、市民への警告でもある。」
「そんなの絶対におかしいわ!罪もない人までいきなり殺すなんて絶対に反対です!」
「じゃあお前に今の世をなんとかする方法があるのか?」
「全てを機械に頼るのではなく、100年前の地上時代のように人間の判断での政治に作り直すのです。人間が判断すれば容易な殺人は考えないはず。」
「何だって?あっはっはっはっはは!人類が前進しなくちゃいけない時なのに政治のやり方を退化させろっていうのか?ふざけちゃいかんよ。人間の政治家は個人的な感傷に溺れやすいんだ。ろくな進展がない。電子頭脳に頼ったほうが判断が早いし効率がいい。」
「そうではありません。感情もない機械の判断で人の命を決められてしまうのが問題なのです。」
「感情がない機械だと?…それはハレルヤへの冒涜になるぞ?ハレルヤはこの世の神が宿った存在だ。地球の救い主であり人類の総指揮者であり、俺を育ててくれた母でもある。ただの機械ではない!」
「そのハレルヤ様が本当に地球を救っていらっしゃるのでしょうか?ここ数年で私達は元の地上生活に戻れる努力をしているのでしょうか?現状を考え改めて見なくてはダメです。」
「お前、いい加減にしろよ。ハレルヤを冒涜するようなことすればお前は戦士でいられなくなるどころか、市民権を奪われるぜ。
どんな事であれ、ハレルヤの計算が全てなのだ。間違いは絶対にない!」
この男は生まれた頃から思想が植え付けられているのだわ。否定ができなそうだしどうしようもないわ…。と思うミアリであった。
ロック「中級戦士のくせに上司に歯向かうなんて無駄な事だ。やめとけ。
21世期の頃の司法なんてやたら命を重んじすぎる思考を持っていて、死刑が確定した凶悪犯罪者が無期懲役に覆るなんておかしな事態もあったもんだ。」
「それは…命は尊いものだからです。奪われた命は2度と戻りません…犯罪を犯す人にもそれ相応の理由があるはず…だから慎重を期するのです…」
「ふん、下らん。だから個人的な感傷に溺れやすい人間の判断はダメなんだ。
しかし、今の時代はもうそんなことは言ってられない…。ここ数百年は文明の衰退が続き、都どころか人類の存亡が危うい事が世界から警報が出ている。ここから改めて人類は前進しないと、まず真っ先にはヤマトが滅んでしまう可能性があるんだ。元島国だしな。
タダで飯食っている連中は無駄な資源の消費になりかねない。マイナスでしかない。都のためにならない人間はすぐさま始末すべき!近いうちに暗殺部隊を派遣させるつもりだ。」
「な!何だって!?…あ、暗殺ですって!?
政府を隠しながらやるんですか?そんなの人道として絶対に許されないわ!」
「もう地球も世界も深刻な状況なんだ。倫理どうとかで話し合っても無駄に長引いて結局は結論が出ずに終わるだけ。政府の機密事項のもとにハレルヤの判断の上で徹底的にやるしかないのだ!」
「ダメ!こんなの市民を恐怖に陥れるだけだわ!お願い慎重に考えて!」
「いいか?ミアリ、都のために行動を尽くすには個人的な判断でやってたらいつまでたってもキリがないんだ。もっと広い範囲で考えろ!戦士ならば非情になれ!変えられなかった過去はもうここで強引にやるしかないのだ!」
「あなた達は人としてどうかしています!」
ミアリの怒りのボルテージが徐々に上がってきた。
「この際常識なんて捨てろ!政府としてもう動かざるわけにはいかないのだ!堕落した市民共を思い知らせるために!変われなかった世間の問題を粉砕するために!徹底的に情勢を責め尽くしてやるのだ!ハレルヤは本当に素晴らしい判断をしてくれた!最高の総指揮者だ!俺も同感だぜ!クッフフフフフ…へへへへへ…はははは。あははははははは!、あーーーっははははははは!!」
ミアリの優しい目つきは影を覆うように恐ろしい目つきに変貌していく…そして…
ロック「はははは!ハレルヤ万歳だ!わあーーーーっはははははは!」
「いい加減にしなさい❗️❗️このゲス野郎!!💢」
ミアリの怒りは絶頂に達したのだった!
ガンッ!!
ミアリの足に激しい蹴りが入った。その先はロックの股間だった。。
キーーーンッ!
「はひぃっ……!?」
目が飛び出すほど大きく広げ、口も縦に広げ、青ざめた表情で徐々に悲鳴を上げる…
ロック「いっ…つ、つ、…あっ…あっ…あっ…ああ!、はひぃ、ひっ…ひぃい!!…ひぎぃいいぃぃいいいいー!!いぎぎ、ひぎいぃぃぃいい!!あぎぎぎいいいいいいーー!!」
股間を抑え、激しく目をつむり、床に倒れ丸まってブルブルと猛烈な痛みに苦しむロックであった…
「私が女だからって調子乗りやがって!💢」
口調が荒れるミアリ。ものすごく怒っている。
「あはぁ…あひっ!いっぎぎぎいぃーー!…
い…いきなり、な…何しやがるんだ…た、タマぁ…、俺の大事なとこを…」
ミアリ「頭にくることばっか言いやがって!あなた達はみんな人でなしだわ!」
「な…な、何だとぉ!?」
「ハレルヤなんてただの人間以下のポンコツ機械よ!神でもなんでもないわ!」
「き、きさまぁ、…は…ハレルヤになんてことを…。」
「あなた達は人情も持ち得ない機械の奴隷で人としておかしくなったんだわ!そして私達戦士も市民もこんなものに支配されて…哀れな事…ハレルヤなんて本当に壊すべき存在だわ!高乃の思った通りだ!」
「う…このアマめ!ハレルヤをついに冒涜したな!このままただで済むと…
ん?タカノ…!?」
「は!しまった!」と思ったミアリだった。まずい、このままでは自分の等級どころか命が危ない…
だがふとこれでチャンス!とも気づくのだった。ミアリはロックを凝視し始めた。ムーピーの能力を発動し、特殊な念波を送り始めた。
「はあ…はあ…タカノって確か昔スパイで侵入した…もしや、お前!その顔!あの時の女…うっ…」
ロックの意識がぼんやりしていった…

ミアリの念波はロックの脳に侵入することに成功したのだった。
ぼんやりした意識はすぐに治る。特に本人は違和感を感じてないが…
「はぁ、はぁ……そうだよな。確かに俺は間違っていたかもしれない…。人々にこのような(タマのような)痛みを味合わせるなんて果たして本当の正義と言えるのだろうか?」
急に態度が一変したロック。もちろん操られているのである。
「そうよ。あなたはハレルヤ様に間違った教育をなされたのです。人としての正しい道を学び直す必要があると思います。」
「でも俺は信じられない!」
「!!、え?…」
うまく意識がコントロールできてないのか?
「ハレルヤは俺の産みの親なんだ。これまでの事を…今更否定なんてできるか!きっとハレルヤは何処かで調子をおかしくしたんだ。一刻もはやく修理を依頼して元に戻してもらわねば!そして母にヤマトの正しい統率を取ってもらわねば!」
「違うわ!機械だけで決める政治が問題なのよ!人間が基本として判断する政治に改めるのよ。」(うーん、まだ上手くコントロールがしきれないわ…)
「何を言っている?ハレルヤは人類の総指揮者であり神なのだ!絶対的存在なのだ!彼女無くして今の世界は続けられない!」
「しかし容易な殺人刑は行き過ぎているのが現状です。だから政治を抜本的に見直すのです。」
「見直すだとお!?今更何を言っている?…もしやお前、ハレルヤの存在が気に入らないのだな?そんな考えは人類戦士として許されないことは知っているよなぁ?」
「そういう事ではありません!とにかく人の痛みの気持ちがわかるのならあなたも今一度倫理を学びましょうよ?ね!ね!」
(ロックの意識がまだ出ちゃうわ。ハレルヤに関わる話はまだあまりしないほうがいいわね…。初めっから教え込まれている事は変えようがないわ…)
「ふん。ハレルヤに背くことは重罪だぞ!言葉に気を付けろよ!」
「はい…とにかく人としての正しい道を学びましょうね。」
「それでもハレルヤは絶対だ!俺のアソコを蹴ったことは覚えてろよ!
うっ…なんか頭がおかしいみたいだ。もういい、少し寝てくるよ…」
こうしてミアリは隊長室を後にした。
ロックの意識はその後正常に戻ったが、タマを蹴られた直後のことは痛みで覚えていなかったようだ。
相手の意識を支配する場合は対象の人が意識を乱している時でないと入り込めない。しかし一度相手の脳に念波を送ってしまえば、その念波はその後潜在的に脳内に保存されるため、後はいつでも容易にムーピーが遠隔で放出してコントロールが可能なのである。

こうしてミアリはロックを乗っ取ることに成功したのであった。ミアリとロックの人類戦士活動はまだまだ続くーーー。

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